東京高等裁判所 平成12年(行ケ)71号 判決 2000年9月06日
原告
株式会社ライオン事務器
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
クラリオン商事株式会社
代表者代表取締役
【C】
訴訟代理人弁護士
田中秀幸
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成10年審判第35454号事件について、平成11年12月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、「Car-Lion」の欧文字を左横書きしてなり(別添審決書写し別紙(1)のとおり)、第9類「電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とする登録第4085717号商標(平成8年4月23日登録出願、平成9年11月28日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成10年9月21日、被告を被請求人として、本件商標の登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第35454号事件として審理した結果、平成11年12月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成12年1月26日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が請求人(原告)の引用する登録第2709360号商標(「ライオン」の片仮名文字と「LION」の欧文字とを上下二段に表示してなり、第11類「電気磁気測定器、電気通信機械器具、電子応用機械器具」を指定商品とする。以下「引用商標」という。)とは、類似のものとは認められないから、本件商標が商標法4条1項11号に該当せず、その登録を同法46条1項により無効とすることはできないとした。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件商標及び引用商標の構成並びに指定商品に関する認定(審決書2頁2~15行)は認める。
審決は、被請求人(被告)が何ら答弁をしないにもかかわらず職権審理をした点で違法であり(取消事由1)、また、本件商標と引用商標との類否の判断を誤った違法がある(取消事由2)から、取り消されなければならない。
1 取消事由1(職権審理の違法)
原告の請求に係る本件商標の登録無効審判請求書の副本が被告(被請求人)に適法に送達されたにもかかわらず、被告は、同審判手続において答弁書を提出せず、争わなかった。ところが、審決は、「審判の最終的判断として示される審決の効力は広く第三者に及び、対世的な影響が大きいことから、その審理を進めるに当たって、純然たる当事者主義により行うことは自ずと限界がある」(審決書4頁22行~5頁2行)ことを理由に、審理を進め、判断をした。
しかし、審決の上記説示は、登録無効の最終的判断権者が最高裁判所であって特許庁ではない点、商標登録の無効審決の効力が利害関係にある当事者にだけ及ぶものと解され、第三者に対して対世的な影響力が及ばない点において、誤っている。
また、審決は、職権審理を行う根拠として、「審理の公正かつ透明性を担保するため」(審決書5頁5行)という点を挙げるが、被告(被請求人)の意思や立場と無関係に、審判官において、あたかも利害関係人のように、原告(請求人)の主張に対し再反論の機会も与えることなく一方的に反論するようなことは、不公正であって、透明な手続ともいえない。商標法56条1項が準用する特許法152条及び153条の規定は、このような独善的な審理を許す趣旨ではない。被告(被請求人)が審判手続において全く答弁をしなかったのは、本件商標が登録無効となることを容認しているものと解さざるを得ないから、それだけを理由に登録無効の審決をすべきものである。
2 取消事由2(類否の判断の誤り)
本件商標の構成態様「Car-Lion」のうち、「Car」の部分は、「カーステレオ」や「カーナビ」(カーナビゲーションシステム)における「カー」の部分のように、自動車関係の商品を意味する接頭語としてその用途を示すものであり、識別力の弱い部分である。これに対し、「Lion」の部分はそれ自体強い差別性と親しみやすさをもった言葉であるから、自他識別力のある商標の要部は「Lion」の部分である。仮に、本件商標の構成態様から「カーライオン」の称呼を発生するにせよ、この称呼に特別な観念が生じているとはいえないから、「カー」と「ライオン」の観念に自然に分けることができる。そして、引用商標は「Lion」及び「ライオン」の称呼及び観念を有するものであるから、本件商標の要部である「ライオン」と対比した場合、両者は類似の商標ということができる。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものである。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(職権審理の違法)について
特許庁の商標登録無効審判手続においては、当事者の意思に拘束されない職権探知主義が原則として採用され、特許庁は、公益的立場において権利の付与と剥奪の権限を有し、職責を負う。特許庁は、この権限及び職責に基づき本件の審判事件に係る審理をしたものであって、審決は正当である。
なお、被告が本件審判請求に対し答弁しなかったのは、同請求が不当であり、特許庁の職権審理によって同請求が排斥されるものと確信したからであり、同請求を容認したものではない。
2 取消事由2(類否の判断の誤り)について
本件商標は、同じ書体で表示されている「Car」及び「Lion」の両文字をハイフン記号で結合させており、視覚上一連不可分、一体となっている。これによって生じる「カーライオン」の称呼も6音節からなる簡潔なものであり、「カー」と「ライオン」のいずれにも軽重の差がなく一連不可分、一体に称呼し得るものである。よって、審決に原告の主張する誤りはないというべきである。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(職権審理の違法)について
被告(被請求人)が、原告の請求に係る本件商標の登録無効審判手続において、答弁書を提出せず、何らの主張立証活動をしなかったことは当事者間に争いがない。
しかしながら、商標登録無効審判手続においては、不答弁ないし不出頭に係る擬制自白の規定(民事訴訟法159条)も準用されていない(商標法56条1項、特許法151条~153条)以上、被告(被請求人)が答弁をしなかったとしても、審判手続上、原告(請求人)の主張する商標登録の無効理由の判断が不要となるものではない。殊に、原告(請求人)の主張している商標登録の無効理由が商標法4条1項11号に該当するというものであれば、同号に定める類似の有無の判断は、法的判断事項に属するから、審判官がそれについて実質的に判断しなければならないことは当然であって、同号の該当性について実質的な審理判断を行った審決に違法はない。
なお、審決中には、職権審理を行う理由を説明する部分があるが、請求人による無効理由の主張立証がなされている以上、その当否の判断を行うことは職権探知主義とは直接関係のないことであって、その部分の説示は不適切であるものの、実質的な審理判断を行う必要があることを述べているにすぎないから、違法とすべき誤りとはいえない。また、審決は、原告(請求人)の主張に係る無効理由(引用商標との類似)について、職権証拠調べ等による新たな証拠を援用して判断したものでもないから、原告(請求人)に再反論の機会を与えることなく判断したとしても、何ら違法ということはできない。
よって、取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
本件商標の構成態様は、別添審決書写し別紙(1)のとおり、同書体による「Car」の欧文字と「Lion」の欧文字とをハイフン記号で結合させたものであり、視覚上一体的に看取できる構成態様であるということができ、また、これから生じる「カーライオン」との称呼は格別冗長とはいえず、一気一連に称呼し得ると認められる。観念上も、「Car」の部分と「Lion」の部分に統一的な観念が生じるとは認めがたいから、「Car」の部分から「自動車」の観念が、「Lion」の部分から「ライオン」の観念がそれぞれ生じるものではなく、全体として不可分一体の造語として認識され、特段の観念を生じるものではないと認められる。
以上のとおり、本件商標は、全体として一体不可分のものとして称呼され、観念されると解される。この点、原告は、「Car」は自動車に係る用途を示すものとして弱い識別力しか持たず、商標としての要部は「Lion」にあると主張するが、「Car」の部分に比べて「Lion」の部分に強い識別力があるとも認められず、「Lion」の部分が看者の目を惹くとも認められないから、「Lion」の部分が本件商標の要部であるとは認められない。
以上のとおり、本件商標中「Lion」の部分が要部であることを前提として引用商標との類似をいう原告の主張は理由がないから、これと同旨の審決の判断に誤りはないというべきである。
3 以上のとおり、原告の審決取消事由の主張はいずれも理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)